グラスホッパー

グラスホッパー (角川文庫)

グラスホッパー (角川文庫)

鈴木・鯨・蝉の3人の登場人物の視点が交互に入れ替わり書かれる多視点一人称小説。解説にはハードボイルド小説とも書かれていた。


一人称視点で書かれているにも関わらず、感情描写をあまり用いない。あくまで客観視的に非情に書く一人称視点。


物語中のジャック・クリスピンやガブリエル・カッソを用いた比喩的表現がなんとも面白い。


ただこの小説を最後まで読んでみて実は鈴木の全て幻覚だったのでは?とも思った。
妻を亡くしたショックが作り上げた鈴木の幻覚。だからこそ事件の2日を現実だと証明するものが何一つ残ってない。ただ幻覚の中でも鈴木は自己を肯定し、前に進もうともがく。自分は結構がんばってるんじゃないかな?と言い聞かせながら。
とこんな風に考えたのはやはり「回送電車は、まだ通過している」という一文のせいだろうな。田中の言った「目覚めの合図」とも重なるし。


ちなみに「グラスホッパー」という題名は、都市で暮らす人間はバッタの『群集相』に似ているという槿(あさがお)の言葉からとられているそうだ。



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